バッハの数多くの作品のなかでも最高傑作のひとつであり、24の調の全てを用いるすぐれて特徴的な構成をもつこの曲集は教育上の目的で作曲されたものらしいです。私はクラシック音楽の専門家でもピアニストでもありません。以前、この曲集では評論家の間で大変評価の高いグレン・グールドのCDを聴いたのですが私にはどうもピンときませんでした・・・・そして、数年前にポリーニ盤が満を持して発売されました。第6回(1960年)ショパン国際ピアノコンクールで1位を獲ったポリーニの弾くピアノは冷徹なほどのテクニックで情熱的なアルゲリッチ(女流ピアニストで第7回の同コンクールで1位を獲っています)のピアノとは対極に位置するものだと言えます。鍵盤を叩く楽器なのですがやはり弾く人が違えば出てくる音は違います。齢を重ねたポリーニの弾くこの曲集の素晴らしさを私はやっと感じることが出来ました。フランスの作曲家シャルル・グノーがこの曲集の冒頭、第1曲の前奏曲に旋律をかぶせた「アヴェ・マリア」はあまりにも有名なのでご存知の方もいらっしゃると思います。また、ショパンの最高傑作の1つである「24の前奏曲 作品28」を書くにあたってはこのバッハの「平均律クラヴィーア曲集」を念頭に置いて作曲したことは間違いないと言われています。
この曲集を聴いて感じるのは、ポリーニの絶妙なテンポの取り方に関係があると思いますが、ピアノという楽器の性格なのかわかりませんけれども、とにかくゆっくり時間が過ぎていく・・そして今までの人生を振り返ってみる・・そんな感覚です。私は2年前に還暦を迎えました。年齢的なものが音楽の感じ方に影響しているかもしれません。ポリーニは今年75歳になられますが、この曲集が録音されたのは2008年から2009年にかけてなので66歳、67歳の年齢の時です。そのことを考えると大変な集中力ではないでしょうか?なにかの本で読んだ事がありますが、音大のピアノ科の教授の先生曰く、バッハを演奏するのは非常に集中力を必要とするので、音大の学生にはバッハはあまり人気はないらしいです。今日は一日バッハにつき合ってみてもいいのでは。